当科の看板の一つである高血圧内科では古くから高血圧診療のエビデンスの確立に取り組んできており、これまでの高血圧診療ガイドラインは歴代教授が中心となって作成いたしました。高血圧診療ガイドライン2019(JSH2019)においても、当教室は、歴史的に高血圧診療の発展に精力的に取り組んできたこと、そして老年内科という高齢者診療の専門性を発揮し、特に高齢者高血圧に関するガイドライン作成に大きく関わりました。
高血圧診療チームではこれまで蓄積された経験を生かし1. 二次性高血圧の診断と治療、2. 難治性高血圧の治療、3. 高血圧患者の総合的評価や教育 等に取り組んでおります。
こちらでは、超高齢化社会における高血圧診療を概説し、特に高齢者高血圧に対する当科の診療を紹介いたします。
高血圧は、喫煙とともに脳心血管病の最大の危険因子であり、高血圧治療の最大の目標は適切な降圧治療によりリスク低減することです。血圧が120/80mmHgを超えると、血圧レベルに比例して脳心血管病や慢性腎臓病の罹患リスクは高まります。食塩摂取量の多いわが国では、疾患別の高血圧罹患人口は最大で、高齢化や肥満とメタボリックシンドロームの増加に伴い高血圧罹患率は依然高率です。
2016年の厚生労働省による国民健康・栄養調査によりますと、高血圧の患者数は4300万人にのぼりますが、実際に治療を受けている患者が57 %(2450万人)と少なく、さらに治療を受けている患者のうちわずか50 %程度(1200万人)しか血圧が140/90 mmHg未満にコントロールされていません。高血圧、脂質異常症、糖尿病などの疾患に対し、医療提供者が治療目標を達成できていないにもかかわらず、原因を検索しない、あるいは治療を強化せずにそのままに様子をみている状態をクリニカル・イナーシャといい、以下のような問題があります。
医療者の問題:高血圧の病態を把握していない、二次性高血圧等の診断が適切になされていない、降圧目標が多少未達成であることを許容している患者の問題:病識の欠如、アドヒアランス不良、副作用等のため治療の強化が困難、経済的理由
医療者は、高血圧の病態と脳心血管病リスクを十分理解し、診療に取り組まなければなりません。また、治療を継続できない患者側背景にも十分配慮する必要があります。
これまで厳格な降圧治療の有用性を検討する多くの臨床試験において、130/80mmHg未満への厳格な降圧治療が、有害事象を増加させることなく脳卒中や心血管イベントのリスクを有意に低下させることが示されました。米国では、2017年 ACC/AHA高血圧治療ガイドラインの改定に合わせ、高血圧の診断基準が130/80mmHgに引き下げられました。我が国では、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)において、高血圧基準は140/90mmHgと据え置かれました。
家庭血圧は診察室血圧よりも信頼性や再現性が高く、脳心血管合併症予後予測精度に優れていることから降圧治療において家庭血圧が重視されました。そこでJSH2019では、家庭血圧における降圧目標が設定され、家庭血圧を指標とした降圧治療の実施が強く推奨されました。
血圧値とともに、脳心血管病発症リスクを評価し、「初診時の血圧レベル別の高血圧管理計画」として、①高血圧の診断、②高血圧の評価、③治療、④治療効果判定と治療方針の再考のプロセスが示されました。
JSH2019では、個々の背景やリスクに応じて降圧目標が修正されました。具体的には75歳未満の成人、冠動脈疾患患者、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞がない場合)の降圧目標値がそれぞれ130/80mmHg未満へと引き下げられました。75歳以上の高齢者の降圧目標値は140/90mmHg未満とされ、併存疾患などがあり高リスクの場合、忍容性があればさらに低いレベルの130/80mmHg未満を目指すとされました。
主要降圧薬としては、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、利尿薬、β遮断薬があり、血圧値以外の脳心血管病のリスクとなりうる合併症や併存症、禁忌もしくは慎重投与となる病態に応じて、適切に選択します。
高齢者の高血圧有病率は非常に高く、また高齢そのものがリスクであることから高齢者高血圧が脳心血管病発症に及ぼす影響は大きいです。一方、高齢者は身体的、精神的、社会的背景が多様です。また、高齢者では若年・中年者と異なり、高血圧の特有の病態があることから降圧療法の恩恵がすべての高齢者に同様にもたらされるわけではありません。
このため、高齢者高血圧においては、個々の患者が有する多くの背景因子を総合的に判断して降圧療法の適応や降圧目標を設定する必要があります。JSH2019では、自力で外来通院可能な健康状態にある患者には非高齢高血圧患者に準じた降圧治療を行いつつも、自力での外来通院が困難なフレイル、認知症、要介護状態、エンドオブライフにある高齢者に関しては、一律の降圧目標は設けず、降圧剤の中止を含めた個別判断が提案されました。
当科では、最新のエビデンスに基づき標準的な高血圧診療を実践すると同時に、治療抵抗性高血圧の病態精査や診断治療に取り組んでいます。また超高齢化社会において、ガイドラインに当てはまらない高血圧患者さんには、高齢者高血圧の特徴や病態を個別に精査し、医学的観点のみならず社会的背景や心理的背景にも配慮した個別の診療をしております。
「もの忘れ・認知症」は、精神科や神経内科でも診療しますが、老年内科では、まさに初期の段階からかかわることが多いのが特徴です。アルツハイマー型認知症をはじめとする認知機能障害の早期診断と治療を行っています。
老年医学研究分野を拡大し、画像診断(MRI、PETなど)やバイオマーカー探索を組み合わせ、最適なケアプランを提案します。老年内科医としての基本の診療スキルとして、優れた診断能力と高齢者特有の病態(周辺症状や身体合併症)への幅広い知識を持って対応します。
単なる記憶障害の評価にとどまらず、日常生活活動度(ADL)への影響や、家族の介護負担、社会資源の活用までを含めた包括的なマネジメントを行います。初期段階での適切な介入により、患者さんの生活の質(QOL)を維持し、住み慣れた地域での生活を支えます。
チームリーダー:赤坂 憲
わが国は超高齢社会を迎えており、もともと糖尿病を持っている方がご高齢になる、あるいはご高齢になってから糖尿病を発症することによって、高齢者の糖尿病は増えています。阪大病院には、糖尿病を専門に診療している診療科として糖尿病・内分泌・代謝内科がありますが、私たち老年・高血圧内科ではよりご高齢の方の糖尿病に特化した診療を行っております。また私たちは糖尿病・内分泌・代謝内科と小児科とともに、阪大病院「糖尿病センター」に参加しており、個々のライフステージに応じた糖尿病診療に貢献しております。
ご高齢の患者さんの中には、糖尿病以外にも様々な疾患や問題点を抱えている方がいらっしゃいます。私たちは老年内科医として、個別の病気のみならず、患者さんの日常生活活動度や認知機能、生活歴や社会的背景を総合的に評価して、それらをふまえた診療を行っております。またご高齢の患者さんには、多種類の薬剤を使用しているケースも見受けられます。多種類の薬剤を整理して、現実的で適正な薬物療法を行うことも、老年内科の役割の一つです。2016年、日本糖尿病学会と日本老年医学会は、合同で「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標2016」を発表しました。この中では「治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL、手段的ADL、併存疾患なども考慮して個別に設定する」とされています。私たちはこの考え方に基づき、ご高齢の糖尿病患者さん一人ひとりに対して適切な糖尿病診療を行ってまいります。
チームリーダー:杉本 研
超高齢社会が進むなか、治療と同時に介護やケアが重要である、いわゆる「老年症候群」に対する対応が強く求められています。なかでも、「ふらつき」は最も多い老年症候群のなかの一つであり、その原因もさまざまです。日常診療で「ふらつき」を訴える患者さんが沢山おられ、その対応に苦労されている例が多いのではないでしょうか。当科では、その原因を体系的に鑑別し、またその原因の一つである筋力低下、特に加齢により生じる筋力低下(サルコペニア)に対しても詳細な検査を行い、適切な対応を指導しております。サルコペニアは、転倒・寝たきりに通じる重要な病態として最近注目されており、その臨床的・基礎的研究を当科で行っております。
日常診療で難渋されているケースがございましたら、是非ご紹介頂ければ幸いです。
●高齢者転倒診療フローチャート
一般に睡眠時無呼吸症候群(SAS)というと睡眠中の上気道の狭窄・閉塞を原因とする閉塞性SAS(OSA)を指す場合が多いですが、最近は中枢性SAS1や睡眠時低換気症候群2といった類縁疾患を含めて睡眠呼吸障害(SDB)と総称することが増えてきました。
睡眠呼吸障害は酸化ストレスや炎症、交感神経の活性化などを介して高血圧・糖尿病・心血管病変・突然死などと相関することから、診断・治療すべき疾患として注目されています。難治性高血圧の80%の方に睡眠呼吸障害を合併しているという報告もあります。また、60歳以上の高齢者の約30%が睡眠障害を訴えており、生活の質を考えるうえで睡眠呼吸障害は重要な疾患です。また、働き盛りの方においても交通事故や労働災害などの観点から注意が必要です。
睡眠呼吸障害に伴う典型的な臨床症状としてはいびきや無呼吸、昼間の過剰な眠気、倦怠感、頻尿、頭痛等が挙げられますが、症状が乏しい、あるいは症状が全く無い場合も少なからずあることに注意が必要です。
睡眠呼吸障害のリスク因子としては男性、肥満、喫煙、飲酒、睡眠導入剤の使用などがあります。また、頚部の脂肪沈着、鼻中隔弯曲や扁桃腫大といった顔面から頚部にかけての構造の特徴によっても睡眠呼吸障害のリスクが高くなります。
なお、若年者ではこのようなリスク因子が背景にあり、また前述の様な症状を伴う場合が多いのですが、高齢者においてはリスク因子のいずれにも当てはまらない、そして症状を伴わない(一見「睡眠呼吸障害の患者さんらしくない」)方の割合が増えることが分かっています。実際に、加齢そのものが睡眠呼吸障害の独立した危険因子であるという報告もあります。
注釈)
呼吸センサー、SpO2モニターを装着し、一晩自宅で検査を行っていただきます。入院の必要がなく自宅で簡単に行う事ができる反面、精度には限界があります。
簡易睡眠モニターでの項目に加えて脳波、心電図、眼球運動、筋電図、胸腹部の運動等も測定を行い睡眠呼吸障害の詳細な評価を行います。入院が必要になりますが、正確な診断のためには必須の検査です。
睡眠呼吸障害の患者さんは高血圧を合併していることが多く、また睡眠中の反復する低酸素刺激により交感神経の活性化を介して早朝高血圧が増えることも分かっています。このような日内の血圧変動も含めて評価を行います。
睡眠呼吸障害では心房細動をはじめとする不整脈の合併が多いことも分かっており、自覚症状等から疑われた場合には24時間持続心電図検査(ホルター心電図)を行うことがあります。
動脈硬化の進展に伴う種々の臓器合併症の評価のために、これらの検査を行う場合があります。
*印の検査は原因精査や合併症精査のために必要な方に施行します。
睡眠呼吸障害の治療は生活習慣指導と介入療法とに大別されます。
生活習慣の改善としては、特に肥満のある方の場合には減量が最も効果的であることが分かっています。他には禁煙、節酒などの指導を行います。介入療法では、適応のある方に対しては持続陽圧呼吸(CPAP)という治療が非常に効果的な場合があります。CPAPとは機械を用いて鼻腔から一定の圧を加えることによって上気道の閉塞を防止する治療のことであり、無呼吸の回数を減らし自覚症状を改善する効果があります。機械は小さく、簡単に持ち運び可能で、継続治療において健康保険も適応されます。なお、CPAPを用いて治療をされている患者さんは1-3か月毎に通院していただく必要があります。当科の睡眠時無呼吸外来では患者さんに持参いただいたSDカードのデータを元にCPAPの使用状況を確認し、より快適にかつ効果的にCPAPを使用することができるように、必要に応じて設定の調整や指導を行います。
当科では高血圧や糖尿病などの生活習慣病や高齢者を中心に診療しているということもあり、疾患の進展防止の目的で睡眠呼吸障害の診断・加療に力を入れています。
自覚症状やご家族のお話等から睡眠呼吸障害が疑われる患者さんがおられましたら、当科睡眠時無呼吸外来までご紹介下さい。
睡眠呼吸障害は診断後に適切な治療を継続することが重要ですので、ご紹介施設との緊密な連携を心がけて参ります。
(文責:大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学 本行一博)
ASOは主に下肢の主幹動脈に全身の粥状硬化の一部分として血管内腔の狭窄または閉塞を来し、慢性の下肢の血流障害を呈する疾患です。その発症要因としては、他の部位の動脈硬化と同様に加齢、男性、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、慢性腎臓病などリスクファクターが関与しています。超高齢社会であるわが国においては生活習慣病の増加を背景に急増しています。また、ASOは全身の動脈硬化症の一部分と考えられ、冠動脈,頸動脈や脳動脈,腎動脈など他の部位に高度な動脈硬化性病変が存在している可能性も考えた精査も必要となります。
当科では、循環器内科、心臓血管外科、皮膚科及び放射線科とも連携し、ASOに対する診療を行っております。
典型的には運動時の下肢筋の血流低下による酸素供給と筋代謝の不均衡が存在すると疼痛が生じ、一定時間の休息によりその症状が軽減する間欠性跛行 (intermittent claudication (IC))を認める様になります。更に病変が進行すると安静時疼痛、潰瘍・壊死を生じ、壊死が進行し、安静時疼痛や感染症が重篤化する場合には切断も考慮します。下肢虚血症状の重症度分類として、Fontain分類があります。(Ⅰ度:無症状、しびれ、冷感 Ⅱ度:間欠性跛行 Ⅲ度:安静時疼痛 Ⅳ度:潰瘍、壊死) ASO患者における1年間の死亡率と脳心血管イベントの発現率は3.8%と5.4%と高く、全身性の動脈硬化症であることが示されています。従って、リスクファクターのコントロールが非常に重要と言えます。
動脈拍動拍動(鼠径動脈、膝窩動脈、後脛骨動脈、足背動脈など)の触知により大まかな病変部位の診断が可能です。足関節上腕血圧比(ankle brachial index)はスクリーニング及び重症度評価に有用です。ABI<0.9はASOと診断されますが、糖尿病や人工透析例などの石灰化病変が強い場合には高値を示すので注意が必要です。皮膚組織還流圧(SPP)はレザードプラ法を用いた測定法により末梢血管領域における下肢虚血の重症度評価を行うものです。SPP<30mmHは重症と判定されます。
運動負荷前後のABIの変化や跛行が生じるまでの歩行距離を計測することで、血流不足の重症度を客観的に調べます。施設によっては近赤外線分光法プローブを用いて機能的評価を行うこともあります。
治療方針の決定のためには画像診断が必須になります。下肢動脈の血管エコーや下肢造影CT検査、造影または単純MRAを行います。必要に応じて下肢動脈造影検査を行いますが、画像診断機器の発展により侵襲的な本検査を行う機会は減っています。しかし、血行再建を考慮する際には必須の検査となります。その他、サーモグラフィーによる皮膚温の可視化により、血流障害を評価します。
禁煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病などリスクファクターの改善による二次予防、三次予防が重要です。
ASOの間欠性跛行患者に初期治療として、トレッドミルまたはトラック歩行による監視下運動療法が推奨されますが、保険で許可された実施施設は少ないのが現状です。その施行が難しければ、よく指導、管理されていれば、在宅運動療法にも効果が期待できます。また、リスクファクターの改善にも運動療法は効果が期待できます。
ASOに対してはシロスタゾール、塩酸サルポグレラート、プロスタグランディン製剤の投与の効果が期待できます。特にシロスタゾールは歩行とQOLの改善が認められており、心不全がない場合の第一選択薬です。
潰瘍形成を伴うASOでは、皮膚科や形成外科、看護師を中心としたコメディカルと連携したフットケアの効果も期待できます。また、糖尿病や慢性腎臓病の患者では、コメディカルを含めた医療者による下肢の定期的観察、検査、フットケアが重症下肢虚血の早期発見、治療に繋がります。
運動療法や薬物療法による跛行の改善効果が不十分な場合や不十分と予測される場合には血行再建が考慮されます。具体的には PTA(経皮的血管形成術)やバイパス術になりますが、放射線科や心臓血管外科と協議の上、その適応を判断します。
先進医療として重症下肢虚血に対して、末梢血幹細胞移植や末梢血単核球移植、HGF遺伝子治療などがあります。HGF(ヒト肝細胞増殖因子)遺伝子治療薬であるコラテジェン®は当科の姉妹教室である臨床遺伝子治療学 森下竜一寄付講座教授のグループにより開発されました。わが国初の遺伝子治療薬で、2019年9月に条件及び期限付き承認として発売されました。標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術が困難なASOやBuerger病おける潰瘍に対して適応があります。
我が国の高齢化が加速するなか、急性疾患で入院した高齢者が病前と同様に戻れない場合も多くみられることが予想され、退院支援の重要性が高まっています。
急性疾患の治療がすんでいるが、慢性疾患や悪性腫瘍などにより、治療の継続が必要な場合や退院後も医療管理や医療処置が必要な場合、退院後も安全に療養が継続できるよう、患者・家族の自己決定を支えていくのが退院支援である。実際には退院先の選定や地域医療機関への患者紹介、社会制度によるサービスの提供を主に行っており、医師・看護師・ソーシャルワーカー・臨床心理士といった多職種で関わり、それぞれの視点で最適な療養環境を模索していく必要があります。
老年内科に入院した65歳以上の患者に対して高齢者機能評価(CGA)を行うが、それが退院支援にも役立つ。CGAは、日常生活を送るために必要な身体的・精神的・社会的問題点をスクリーニングすることができる。CGAで挙げられた問題点を基に、退院後の生活を想定して、より快適な療養環境を提供できるよう環境調整を行う。
医療的な知識、社会保険制度・福祉の知識や、地域におけるリソースも理解しながら、多職種・多機関で協働していく事が重要である。
総合診療科の詳細については、以下の専門サイトをご覧ください。
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